東京極貧紀行〜浅草・スカイツリー編〜
春先、私はふと旅に出たくなり、東京の格安スポットについて検索をかけた。
しかしヒットしたのは関東の暇そうな大学生の「格安で行ける東京の名スポット!」みたいなブログ。それを見た私は思わず血反吐を吐いた。
「1000円以内で食べられる格安ランチ!」じゃねぇんだよボケ。はっ倒すぞ。小田急の準急で新百合ヶ丘まで拉致されろ。
「インスタグラムに投稿できる!」じゃねぇんだよブス。ぶっ飛ばすぞ。中央線の通勤快速で三鷹まで拉致されろ。
こういう大学生の言う「安い名スポット」というのは往々にして「最低限ブランド化されている」ことが暗黙の了解として含意されており、従って「最安」ではない。「安く済ませたい!でもインスタには載せたい!」という強欲セルフィッシュな自意識がこのような中途半端なクソブログを生み出してしまうのだ。合計3000円もかかるくせに「格安」なんて銘打つんじゃねえよバーーーーーカ!!!死ね!!!
上述した現状を打破し、真の「最安」を提供すべく、私は自意識の壁を乗り越え、ただひたすらに安い場所、安い飯、安いルートを模索した。そう、これこそがホンモノの「"最安"スポット」である。刮目して見よ。
第1回『浅草・東京スカイツリー』
交通費:0円
食費:400円
合計:400円
えっ!?こんなオシャレな観光地にこの値段で!?と思う方は多いだろう。しかしある手段を使えば本当にたったの400円でこのランドマークを楽しみ尽くせるのだ。
まず用意するのは何と言ってもコレ。
自 転 車 。
コレは以降のスポットでも頻用される必須アイテムなので是非とも手に入れておきたい。メルカリでだいたい数千円程度で買えるが、それでも高いと思ったらウインズ浅草前あたりの自転車放置区域からパクってくるのもアリだろう。
さて、この自転車でどうやって浅草やスカイツリーまで行くかというと…
…漕ぐのである。
ただひたすらペダルを漕ぐのである。
特別なことなど何一つない。漕げ。
「疲れるからヤダ」じゃねぇ、漕げ。
漕げばいつか着く。漕げ。
23区内なら一番遠いところからでも距離はたったの20kmしかない。つまり自転車があれば遅くとも2時間程度で浅草やスカイツリーまで到着してしまうのだ。もちろん交通費はゼロ。そのうえ地球と健康にも優しい。いいことしかない。
だが20kmも自転車を漕げば当然腹は減る。しかし浅草は右も左も金銭感覚の狂った金持ち外国人観光客ばかりなので、彼らから少しでも多く利益を貪ろうとあらゆる飯屋のレートがはね上がっている。
600余円の白饅頭を安い安いと叩き売るのが果たしてグローバリズムの正しい在り方なのか。下町人情(笑)の閉鎖性がこういうところに垣間見えますよね。
しかしそんな非情なる観光客ビジネスの裏、頭のおかしい値段で良質な食物を提供してくれる牛串屋がギャンブル狂収容施設・ウインズ浅草の近くにあった。その名は『丸十精肉店』。
チェーンじゃねーか殺すぞボケと突っ込まれるかもしれないが、ここの串焼きを頬張りながら浅草の街をブラブラするのは正直かなり乙だし、無駄に高額な個人店で微妙な飯を食らうより5億倍はマシなので敢えて紹介させてもらう。
丸十精肉店といえば牛串だが、この旅で買うのは牛串ではない。牛串は600円もかかるのでいかんせんコスパが悪いのだ。
そこで代わりに買うのは鶏皮串(200円)×2である。鶏皮串200円って普通じゃね?などと思うなかれ。とにかくここの串はデカい。
2本も食べれば十分腹の足しになるだろう。こうして帰りの自転車も元気満々で漕げるというわけである。
腹も膨れたところでそろそろスカイツリーを見てみよう。しかしスカイツリーの綺麗な写真が撮りたいだけなら正直浅草寺からでもその全体がはっきりと見えるので、わざわざツリーの根元まで行く必要はないかもしれない。
そして仮に根元まで行くとしても、もちろん自転車を使う。東武伊勢崎線?都営浅草線?知りませんね。
隅田川を越えるといよいよ天を衝くスカイツリーの御姿が並ならぬダイナミズムを持って現前する。行ってみれば分かると思うがスカイツリーってメチャクチャデカいんですよね。さすが都庁からも池袋駅からも高尾山山頂からもその全貌を視認できるだけはある。とはいえあまり近づきすぎるとカメラに収まらなくなるので注意が必要。
また、どうでもいい豆知識だが、スカイツリーは午前0時を回ると消灯される。綺麗な写真を撮るなら午前0時までだろう。消灯後は観光地チックな華々しさも完全に消失し、ただただ無機質な巨影が下町の深夜を不気味に支配する。巨大建造物フォビアの人にとっては卒倒不可避の気味の悪さだろう。
さて、スカイツリーも十分堪能した頃だしそろそろ浅草に戻ろう。なぜならまだ浅草には面白スポットが残っているからだ。
辿り着いたのは東京メトロ銀座線浅草駅。は?ここまできて地下鉄で帰んのかよ殺すぞと思うかもしれないが落ち着いて欲しい。
ここで紹介するのは銀座線浅草駅の周辺にこじんまりと佇む場末スポット『浅草地下商店街』である。
近代化された浅草駅改札からほど近い路地にこんな潰れかけのバラック商店街があること自体不思議だが、こういう実利性が全く欠如したわけのわからん機構が「だって浅草だから」の一言で許容されてしまうのが浅草の魅力といえよう。
こういう日本語が怪しげな国際料理系の個人店が多いのも浅草クオリティ。ちなみにこの店は蕎麦を300円で提供してくれる。味の方は…うん、まぁ…
これで浅草・スカイツリー周辺の文化についてはほぼ知ることができたも同然。どうだ、本当に400円で済んでしまっただろう。
深夜帯なら無人の仲見世通りを自転車で爆走しながら帰路につくこともできる。昼間はあれだけ胡散臭い観光客でごった返す通りがこれほどまでに静まり返るとは何とも不思議なものである。
さぁ君も400円だけ持って今すぐ浅草に繰り出そう。こんな場所で何万も費やしている愚鈍な観光客どもを鼻で笑おう。貧乏人万歳。